東京高等裁判所 平成8年(行ケ)262号 判決 1998年10月15日
東京都板橋区常盤台2丁目20番18号
原告
ニッカ株式会社
代表者代表取締役
齋藤太郎
訴訟代理人弁護士
佐藤治隆
同
弁理士 村上友一
同
大久保操
アメリカ合衆国 イリノイ州 60018
ローズモント、バーウィン アベニュー9590
被告
ボールドウイン テクノロジーコーポレイション
代表者
ヘレン ピー、オースター
(審決表示の住所・社名 アメリカ合衆国 カネチカット州 06902 スタンフォード
シツパン アベニュー 401 ボールドウインーゲゲンハイマー コーポレイション)
訴訟代理人弁理士
武石靖彦
同
村田紀子
主文
特許庁が平成7年審判第15689号事件について平成8年9月30日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決に対する上告のための付加期間を30日と定める。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文1、2項と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、名称を「自動ブランケット洗浄装置」とする特許第1670505号発明(昭和55年4月19日特許出願(特願昭55-52233号 優先権主張1979年4月19日 米国)、平成2年2月13日出願公告(特公平2-6629号)、平成4年6月12日設定登録。以下「本件特許発明」という。)の特許権者である。
原告は、平成7年7月24日、本件特許につき無効審判を請求し、平成7年審判第15689号事件として審理されたが、平成8年9月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年10月9日原告に送達された。
2 本件特許発明の要旨
(1) 特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本件特許第1発明」という。)の要旨
印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができるようにしたことを特徴とする装置。
(2) 特許請求の範囲第2項記載の発明の要旨
印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに、
(f) 前記巻取ロールと共同し、実質上同一量の布帛を間欠的に送るための送り機構を備えたことを特徴とする装置。
(3) 特許請求の範囲第5項記載の発明の要旨
印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに、
(f) 前記ブランケットシリンダに近接した位置でフレームに連結された動力機構と、
(g) 前記巻取ロールおよび前記動力機構に連結され、前記巻取ロールを1方向にだけ回転させるワンウェイクラッチと、
(h) 前記ワンウェイクラッチに連結され、前記巻取ロールとともに移動するクランクアームと、
(i) 前記クランクアームに取り付けられた前記巻取ロールの回転量を制御する制御機構とを有し、前記制御機構は前記クランクアームの長さ方向において前記巻取ロールの軸芯の放射方向に移動するキャリヤを有し、さらに、
(j) 前記キャリヤに取り付けられ、前記巻取ロールの外面と係合するフォロアを有し、前記フォロアは前記キャリヤに連結され、前記巻取ロールに対し放射方向に移動し、前記巻取ロールに軸芯のまわりを円弧状に移動し、さらに、
(k) 前記フォロアの円弧移動を停止させ、これによって前記巻取ロールの過度の回転を防止するストッパを有することを特徴とする装置。
(4) 特許請求の範囲第6項記載の発明の要旨
印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに、
(f) 圧縮空気を前記膨張部材に導き、前記膨張部材を膨張させ、前記洗浄布帛を前記ブランケットシリンダと接触させ、その圧縮空気を前記膨張部材から解放し、前記膨張部材をしぼませ、前記洗浄布帛を前記ブランケットシリンダから離すための導管を備えたことを特徴とする装置。
(5) 特許請求の範囲第7項記載の発明の要旨
印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための第1導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための第2導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに、
(f) 乾燥空気を前記ブランケットシリンダに導き、これを乾燥させるための第3導管と、
(g) 前記巻取ロールを間欠的に回転させ、前記巻取ロール上の洗浄布帛の量に関係なく同一長さの洗浄布帛を前記ブランケットシリンダに送るための送り制御機構を備えたことを特徴とする装置。
(6) 特許請求の範囲第11項記載の発明の要旨
印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに、
(f) 装置の動作シーケンスを自動的にまたは手動で制御するための制御機構を備えたことを特徴とする装置。
(7) 特許請求の範囲第12項記載の発明の要旨
印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに、
(f) 回転可能に支持され、ハンドクランクによって回転させることができるシャフトと、
(g) 前記巻取ロールを回転自在に載置することができるローラ台と、
(h) 前記シャフトが回転したとき、前記供給ロールを回転させ、使用された布帛を前記巻取ロールから巻き戻すための前記シャフト上のギヤおよび前記供給ロール上のギヤを備えたことを特徴とする装置。
(別紙図面1参照)
3 審決の理由
審決の理由は、別添審決書写し(以下「審決書」という。)記載のとおりである(但し、2頁7行目の「平成3年11月28日」は「平成4年6月12日」の、7頁9行目の「導管」は「第1導管」の、7頁11行目の「導管」は「第2導管」の、10頁15行目の「要件」は「要件を」の、20頁7行目の「シリング18」は「シリンダ18」の、21頁1行目の「プランケット洗浄」は「ブランケット洗浄」の、26頁4行目の「点線出」は「点線で」の、27頁10行目から11行目にかけての「甲第1号証に記載されたのものは、」は「甲第1号証に記載されたものは、」の、33頁10行の「洗浄布帛シリンダ」は「洗浄布帛をシリンダ」の、34頁末行の「4」は「3」のそれぞれ誤記である。)が、要するに、本件特許発明が特許法36条3項又は4項規定の要件を満たしていないとの請求人(本訴原告)の主張は理由がなく、また、本件特許発明は、請求人(原告)提出の甲第1号証ないし第6号証記載のものから容易に発明をすることができたものとすることはできず、しかも、甲第1号証ないし第6号証記載のものには期待することのできない特有な作用効果を奏するものと認められるから、本件特許を無効にすることはできないというものである。
なお、甲第1号証ないし甲第3号証については、別紙図面2ないし4をそれぞれ参照。
4 審決の理由に対する認否
審決の理由Ⅰ(本件特許発明の要旨等)、同Ⅱ(請求人の主張)、同Ⅲ(請求人が提出した証拠)は認める。同Ⅳ(当審の判断)の1(審決書25頁11行ないし26頁11行)は争う(但し、本件特許発明は特許法36条3項、4項の要件を満たしていない旨の主張に対する審決の判断については、取消事由としては主張しない。)。同Ⅳの2(1)(同26頁13行ないし33頁15行)のうち、31頁1行ないし11行の部分、32頁10行ないし33頁15行の部分は争い、その余は認める。同Ⅳ2(2)(同33頁16行ないし34頁19行)は争う。同Ⅳ3(同34頁末行ないし35頁2行)は争う。
5 審決を取り消すべき事由
本件特許第1発明は、甲第1号証(米国特許第2、525、982号明細書)、甲第2号証(米国特許第1、147、152号明細書)及び甲第3号証(米国特許第4、135、448号明細書)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるにもかかわらず、審決は、本件特許第1発明と甲第1号証記載の発明との相違点<1>及び<2>についての判断を誤った結果、本件特許第1発明は上記甲各号証記載のものから容易に発明をすることができたものとすることはできないと誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(相違点<1>についての判断の誤り)
相違点<1>、すなわち、本件特許第1発明は、押圧手段として、膨張部材を用いたのに対し、甲第1号証に記載されたものは、カム機構を用い、そのカム機構によりウイックホルダの先端のウイックを押し出し移動させた点について、審決は、「本件特許第1発明と甲第2号証の膨張部材で移動される布帛の対象及び作用が異なるものであるから、甲第2号証には、ブランケットシリンダを洗浄するという課題は、記載されてなく、また、示唆していないので、甲第2号証記載の膨張部材をブランケットシリングの洗浄に転用することは容易とはいえない。」(審決書31頁5行ないし11行)と認定、判断しているが、誤りである。
<1> 布帛の対象の同一性について
甲第2号証には、給湿装置のみならずこれと同一の構成をもつ払拭装置(払拭布29、30)、研磨装置(研磨布33、34)が記載されているが、このような装置は、版上に残った汚れを取り去ることを目的としているものであり、この点、本件特許第1発明が版面としてのブランケットシリンダに付着した汚れを対象としていることと何ら変わりはない。ただ、甲第2号証の凹版輪転印刷機の場合、1回の印刷毎にインキの塗布作業を要するため、インキ装置によって塗布された過剰なインキの除去作業が必然的に生じるだけであって、インキ装置26以後の払拭装置(払拭布29、30)、研磨装置(研磨布33、34)は、版面に付着した印刷に不要な付着物を取り除く作用をなすのであり、布帛の払拭対象は本件特許第1発明と同一である。
<2> 布帛の作用の同一性について
甲第2号証には、押圧部材として空気圧による膨張部材を用い、版胴表面を払拭するシートを版胴表面に膨張部材への空気供給によって膨張させて押し付ける構成が開示され、空気を抜くことにより版シリンダに接触させない操作不能な位置まで洗浄布帛を離反移動させることが明示されており、この膨張部材の作用は、本件特許第1発明の膨張部材の作用と全く同一である。
<3> 課題の同一性について
甲第2号証における払拭は、前記のとおり、余剰インキばかりでなく、版面に付着した紙粉等の付着物を除去して版面を清浄にすることを目的としており、本件特許第1発明と同一の課題を内包している。甲第2号証には、印刷シリンダの表面から汚れを除去するための洗浄布帛を、膨張部材を経由させて配置し、シリンダに接触させるのに空気圧による膨張作用でシリンダに向けて移動させるという技術的思想が明確に開示されており、このような技術的思想は本件特許第1発明と同一である。
そして、ブランケットシリンダが用いられる平版輪転印刷機(オフセット印刷機)と凹版輪転印刷機とは、これを併設した印刷機があることや凹版の間接印刷があることにも象徴されるように同一技術分野に属するものである。しかも、両印刷機は、同一の印刷工場において相隣設置する関係におかれ、通常の発明者であれば、凹版印刷機に用いられた技術をブランケットシリンダが用いられるオフセット輪転印刷機のシリンダ洗浄装置に転用することを容易に想到し得るものである。まして、本件特許公報(甲第8号証)に「印刷機械のエレメントを洗浄するためのウエブ布帛は、ぬぐい布帛が印刷機から過剰のインクを取り除くために使用される凹版印刷機に使用されている。洗浄ウエブは自動ブランケット洗浄装置にも使用されている。」(12欄5行ないし9行)と記載されているように、本件特許発明の発明者も転用の容易性を十分に認識しており、当業者が凹版印刷機の技術を参照し、その技術手段をオフセット輪転印刷機に転用することは、容易になし得たことである。
<4> 上記のとおりであって、当業者であれば、甲第2号証に開示の膨張部材を甲第1号証のブランケットシリンダ洗浄装置のカム機構に代えて転用することは極めて簡単であり、相違点<1>についての審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由2(相違点<2>についての判断の誤り)
相違点<2>、すなわち、本件特許第1発明は、洗浄液として、水と水以外の溶媒を用い、導管を介し直接洗浄布帛に導いたのに対し、甲第1号証に記載されたものは、洗浄液を導管、ウイックを介し洗浄布帛に導いた点について、審決は、「相違点<2>は、甲第3号証に開示されていない。」(審決書33頁1行、2行)と判断しているが、誤りである。
<1> 布帛の走行メカニズムと導管の関係について
審決は、「本件特許第1発明のように、膨張部材による布帛移動という構成と結びついて始めて布帛を走行メカニズムの中への複数の導管(水・溶媒など)を併設するという発想に想到するものである。」(審決書32頁16行ないし末行)と説示するが、本件特許第1発明には、布帛走行メカニズムとの関連構成については何ら特定されておらず、単に洗浄布帛に水や溶媒を導く導管の存在を構成要件としているのみである。本件特許第1発明では、単に洗浄装置が、「(c)水を前記洗浄布帛に導くための導管と、(d)水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、」を備えていることを構成要件としてなるもので、膨張部材の作動構成との有機的関連性は洗浄剤供給のための水導管と溶媒導管との間に存在しない。
ところで、甲第3号証には、水導管を通じて洗浄水を移動する布帛に導く構成が明示され、同時に水以外の溶媒を用いる可能性を指摘している。甲第3号証では、溶媒を用いる場合についてウェスコット(Wescott)装置を複数設置すればよいとの見地に立脚しているが、これは換言すれば、複数の洗浄剤を用いる場合にはその種類の数だけ洗浄剤の供給手段を要するということであり、洗浄水を導管で行う実施例に加えて溶媒を布帛に導くことが必要であれば、当業者において溶媒導管を前記水導管に併設するという構成に至ることは至極当然のことである。
<2> 複数洗浄液の供給に際して複数導管を用いることについて
複数の洗浄液を用いる場合に複数の導管を用いることは周知であり(甲第15号証ないし甲第17号証)、複数の洗浄液を複数の導管を用いて行うことは、当業者であれば特別の工夫を要することなく必要個所に必要な数の導管を配置することができるもので、それは単なる設計的手法にすぎない。甲第3号証は、このことを「シリンダを効果的に洗浄するためには、一般にシリンダ表面で見られる汚れ物質の夫々を溶解する溶剤でブランケットシリンダを洗浄する必要がある。通常は、水と非水溶媒をシリンダ表面に塗布している。」(訳文1頁16行ないし19行)という記載により明確に示唆している。
<3> 上記のとおり、甲第3号証には、洗浄布帛の走行経路の途中で洗浄液として水導管を配置した構成が開示され、併せて水以外の溶媒の供給の可能性を明示しているのであるから、布帛走行メカニズムの中へ複数の導管を併設することは当業者にとっては極めて容易に想到し得る構成であり、相違点<2>についての審決の判断は誤りである。
(3) 被告主張の本件特許発明の効果について
被告は、本件特許発明が膨張部材・水導管・溶媒導管の三者を同時併設したことにより、シリンダ上の汚れの程度、質に応じた最適の水・溶媒の供給比及びこれらのタイミング制、御が可能となるほか、その汚れの程度に即応して洗浄布帛のシリンダへの接触・離脱(布送り)の繰り返し頻度を簡単な構成によって迅速機敏に制御でき、これらの作用が相乗されて洗浄効率を高め、結果的に洗浄時間の短縮、用紙の浪費の軽減という甲第1号証ないし甲第3号証から全く予期できない効果をもたらす旨主張する。
しかし、本件明細書には上記内容のタイミング制御について一切記載されていない。また、本件特許発明の特許請求の範囲には、溶媒と水の供給比率をタイミングよく最適値に制御する手段は提示されておらず、単に水導管と溶媒導管を備えることが構成要件として示されているにすぎない。
膨張部材の作用は、洗浄布帛をシリンダに向けて移動させることであり、これは洗浄体勢になるために布帛をシリンダ接触位置に移動させる機能であって、従来の機械的に洗浄ユニット全体を往復移動させることの不合理性を改善しようとするものである。これに対して、水導管や溶媒導管を配設した構成は、洗浄布帛に洗浄液としての水や溶媒を供給するためのものであり、前記膨張部材の作用や機能と導管作用との因果関係は全く見出すことができず、それらが相乗的な作用をなすような記載は本件明細書には存しない。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同5は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
甲第2号証の膨張手段は、凹版の版溝にインキを隈なく詰め込むと同時に溝以外の部分のインキを拭い取るための操作(wiping)や、インキを版面に供給する前に版溝以外の部分になるべくインキが付かないように水などで表面を湿らせておく操作(moisturing)をするもので、ブランケットシリンダの洗浄のための膨張部材とは技術的背景、意義及び対象を全く異にするものである。すなわち、甲第2号証の装置は、インキングプロセス中に版胴面のインキを拭い取りながら即印刷を行うもので、膨張手段が印刷版面に接触している間にその接触を離脱させることは考えられないし、、また、当然用紙の空送りも必要でないのでこれに伴う紙の浪費という課題も存在しないのであるから、甲第2号証の膨張部材には、本件特許発明の課題である払拭時間の短縮を示唆できる要素は何もなく、また、接触・離脱を繰り返さざるを得ないブランケットシリンダへの転用につながる背景は全く存在しない。
(2) 取消事由2について
甲第1号証の装置は、ウイックと呼ばれるスポンジ状のものに一旦溶剤を吸着させておいてこれを布帛に押し付け、シリンダに浸透させるもので、水の使用は全く意識されていないし、もし、水が必要となればウイックを取換えなければならず、時宜に応じた水と溶媒の供給量制御は全く不可能である。
甲第3号証記載のものは、1本の導管に水やその他の溶媒を順次供給するものであって、同号証には導管を複数にすることの可能性は全く開示されていない。したがって、水と溶媒の双方を使用する場合には、予め別のタンクに水と溶媒の双方を所定比で混合したエマルジョン溶液を作っておき、上記1本の導管を通して供給することになるが、これでは本件特許発明の併設導管の効果、すなわち、使われる用紙とインキの種類に応じて溶媒と水の供給比率をタイミングよく最適値に制御することによる効率のよい洗浄をするという効果は達成できない。
このように、甲第1号証も甲第3号証も複数の溶媒を使う必要性を認識しながら、本件特許発明の後記(3)<1>記載の課題まで深く分析されていないため、「水と溶媒の導管を同時にそれぞれ別々に配置しておく」という発想に至っていないことは明らかである。この水導管と溶媒導管の同時併設構成は、膨張部材による機敏な接触・離脱機構と結合組み合わされたことによって、簡単な構成のもとに洗浄時間の短縮と紙の浪費の軽減につながる重要な要素である。したがってこの点を重視して本件発明の進歩性を認めた審決の判断は正当である。
(3)本件特許発明の「膨張部材・水導管・溶媒導管の三者同時併設」による特有の効果について
<1> 本件特許公報(甲第8号証)には、次の各事項が記載されている。
(a) 自動ブランケットクリーナにおいては水と水以外の溶媒とを並列供給する設備が不可欠であると認識したこと(7欄42行ないし8欄28行)
(b) 紙粉や粘土質などはかたく付着しているので強くこすり付けてはがす必要があること・・・布帛方式の長所を利用すべきであると認識したこと(ブラシ方式では十分でないとの意識)(8欄29行ないし38行)
(c) シート印刷では自動洗浄を2分以内、望ましくは1分以内にする必要があること・・・ウエブ印刷では紙の浪費を最小にするためにも洗浄時間を更に短くすべきこと(8欄39行ないし9欄1行)
(d) 水と溶媒が直接シリンダの駆動機構や表面などにかからないようにしないとシリンダ表面のゴムを損傷したり、錆びるおそれがあること(布帛に対して内側から放出することの必要性)(9欄2行ないし13行)
(e) 水と溶媒の量を適正に制御することが必要であること・・・溶媒が多過ぎると表面に残った溶媒で次の印刷のためのインキを汚すおそれがあり、水が多過ぎるとシリンダ上の残留水分のために不良印刷面が送られることになるなど結果として紙の浪費を来すこと(9欄14行ないし22行)
(f) 溶媒をできるだけ少なくすることによりコスト低減になり、かつ後の乾燥工程での爆発防止につながること(水の併用により溶媒が少なくてすむ場合があること)(9欄23行ないし36行)
<2> 本件特許発明の発明者は、発明の創造過程においてこれらの課題を踏まえ、「自動ブランケットシリンダクリーナーは、その操作を約2分間で完了させるべきであり、1分間で完了させるようにするとさらに好ましい。ウエブ印刷機の場合はそれよりも短時間で完了させることが好ましい。」(甲第8号証10欄19行ないし24行)との目的に向かって技術開発を進め、「膨張部材、水導管、溶媒導管の三者同時併設という結合構成」を提供するに至ったものである。
上記三者の構成要素を同時に併設した洗浄装置は、シリンダ上の汚れの程度、質に応じた最適の水・溶媒の供給比及びこれらのタイミング制御が可能となるほか、その汚れの程度に即応して洗浄布帛のシリンダへの接触・離脱(布送り)の繰り返し頻度を簡単な構成によって迅速機敏に制御できる。これらの作用は相乗されて洗浄効率を高め、結果的に洗浄時間の短縮、用紙の浪費の軽減という甲第1号証ないし甲第3号証から全く予期できない効果をもたらす。
そして、これらの効果は上記三者の結合組合せによる特有、かつ独自の効果であって、本件特許発明の進歩性を担保するに十分なものである。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本件特許発明の要旨)及び3(審決の理由の記載)は、当事者間に争いがない。
そして、甲第1号証ないし甲第6号証に審決摘示の事項(審決書15頁11行ないし25頁9行)が記載されていること、本件特許第1発明と甲第1号証記載のものとの一致点及び相違点が審決認定(審決書26頁13行ないし27頁18行)のとおりであることも、当事者間に争いがない。
2 取消事由1(相違点<1>についての判断の誤り)について
(1) 以下の事実は当事者間に争いがない。すなわち、甲第2号証(米国特許第1、147、152号明細書)には、凹版印刷装置に関するものが記載され、そして、膨張部材として空気圧による膨張部材を用い、版胴表面を払拭するシートを版胴表面に膨張部材への空気供給によって押し付ける構成が開示されていること、また、空気供給により膨張させたときに洗浄布帛を版シリンダに接触させ、空気を抜くことにより版シリンダに接触させない操作不能な位置まで洗浄布帛を離反移動させることを明示していること、さらに、この膨張部材が布帛リール35、巻戻しリール36間の払拭布帛を押圧して版面の余剰インクを払拭除去することが記載されていること、この凹版印刷機の「給湿装置」、「インキング装置」、「インキ払拭装置」及び「インキ研磨装置」は、「印刷機械の大体の作用は・・・各版はインキング装置26を通過すると、インキを受け取って払拭パッド27および28を通過し、そのパッドを布29および30が通っている。布は食刻または彫刻線からインキを除去することで過剰なインキを吸い取って一部インキで満たされるとともに、払拭布で当該刻線にインキを・・・満たすようにしている。払拭パッド27、28から各版は研磨パッド31、32へと通過する。研磨パッドは、版の上面に対してのみ限定的に作用し、上面に残っているインキを除去する。」(甲第2号証訳文9頁23行ないし10頁5行)、「各版は受渡し装置により印刷紙を剥ぎ取られた後、布98によって給湿装置へと進む。ここにおいて、版の非印刷面は薄い水の膜を形成し、他のインキのある部分では水を弾き、版に刻まれた線内に溜まっているインキが印刷線内に留まらないようにしている。各版が給湿装置に置かれると、給湿布98が給湿プラテン97を回って水分を含ませる布の新たに水分を含ませた部分を持ってくるように進行する。・・・給湿装置は各版と係合する前のインキング装置と近接して運転され、油分を寄せ付けない各版面の水膜は非印刷面にインキが留まらないようにしている。しかしながら、版面の違った部位には微量のインキが残ってしまい、払拭装置が必要となる。研磨装置は、版の手仕上げを必要とするような全ての状況を破棄するのに必要なものであり、・・・また、払拭パッドが、非印刷面から水分の膜を除去するために配されている。当該表面にインキがあるか否かは問わない。」 (同11頁29行ないし12頁13行)、及び「更なる他の目的は、このような特徴のある印刷機を提供し、その中で圧胴とインキング装置との中間に給湿手段を設けて連続する版の表面を湿らせて、上面に置かれたインキの量を最小限に止め、印刷機の運転コストに経済性を持たせることである。」(同2頁22行ないし25行)と、それぞれ記載されていることから、甲第2号証のものは、前記膨張装置と同様な構成である給湿装置で予めインクの節約という観点から湿り気を与え凹版である凹溝のみにインク着けをするものであること、そして、前記膨張部材で、凹版シリンダ上の水分及び過剰のインクを取り除くことを目的としたものであることは、当事者間に争いがない。
(2) 上記のとおり、甲第2号証の洗浄布帛は凹版印刷装置の凹版シリンダ上の水分や過剰インクを取り除くものであるのに対し、本件特許第1発明は「オフセット・・・印刷機のブランケットシリンダに印刷時に集積された付着物を自動的に取り除くための装置」(甲第8号証7欄1行ないし3行)であって、本件特許第1発明の洗浄布帛が取り除くものは印刷中にブランケットシリンダに生じた種々の付着物であり、甲第2号証のものと本件特許第1発明とは、膨張部材で移動される布帛の洗浄対象物が相違している。しかしながら、甲第2号証記載のものは、布帛リールと巻戻しリールとの間の洗浄布帛を版シリンダに接触・離反移動させる押圧手段として圧縮空気による膨張部材を設けたものであり、シリンダの表面を払拭する布帛を膨張する装置で移動させるという構成において、本件特許第1発明の押圧機構と同一である。
ところで、甲第1号証(米国特許第2、525、982号明細書)のブランケットシリンダ洗浄装置における押圧手段は、カム機構を用い、そのカム機構によりウィックホルダの先端のウィックを押し出し移動して、洗浄布帛を移動させ、ブランケットシリンダと接触させることができるようにしたものであるから、甲第2号証記載のものとは、印刷装置のシリンダの洗浄を布帛を押圧して行うものである点で共通し、甲第1号証のカム機構も甲第2号証の膨張部材も、布帛をシリンダに接触・離反移動させる作用のために設けられているものである点で異なるところはない。また、本件特許公報(甲第8号証)中の「印刷機械のエレメントを洗浄するためのウエブ布帛は、ぬぐい布帛が印刷機から過剰のインクを取り除くために使用される凹版印刷機に使用されている。洗浄ウエブは自動ブランケット洗浄装置にも使用されている。」(12欄5行ないし9行)との記載に照らしても、凹版印刷機における洗浄技術をオフセット印刷機のブランケットシリンダ洗浄装置に転用することは、当業者において容易に想到し得るものと認められる。
そうすると、シリンダを洗浄するための布帛をシリンダに移動させる押圧手段として、甲第1号証のカム機構に代えて甲第2号証の膨張部材を転用することは、当業者において容易に想到することができたものと認められる。
(3) 被告は、甲第2号証の装置は、インキングプロセス中に版胴面のインキを拭い取りながら即印刷を行うもので、膨張手段が印刷版面に接触している間にその接触を離脱させることは考えられないし、また、当然用紙の空送りも必要でないのでこれに伴う紙の浪費という課題も存在しないのであるから、甲第2号証の膨張部材には、本件特許発明の課題である払拭時間の短縮を示唆できる要素は何もなく、また、接触・離脱を繰り返さざるを得ないブランケットシリンダへの転用につながる背景は全く存在しない旨主張する。
本件特許公報(甲第8号証)には、「第3の重要な要素は、自動ブランケットシリンダの洗浄時間を減少させる必要があることである。シートを送る印刷機械では、自動洗浄時間は2分を越えないようにすべきである。1分以内にとどめることが好ましい。ウエブの印刷機械では、洗浄時に紙の浪費を最小限にとどめるという観点から、洗浄時間をさらに短くすべきである。」(8欄39行ないし9欄1行)と記載されていることが認められる。
ところで、甲第1号証には、「最近の業務用のオフセット印刷機においては、渡し胴シリンダ又はブランケットシリンダの表面をクリーニングする問題に当たって、クリーニング速度と健康という2つの点を考慮しなければならない。業務用オフセット印刷機は、多くの場合に、大量の短い版を順次作成することを要求される。そのような動作に際しては、オフセットブランケットを1分又は2分という短い時間でクリーニングしなければならず、従って、1日分の作業で数百回もクリーニングを行わなければならないということになるであろうし、そうなることも多い。」(訳文2頁5行ないし11行)、「本発明では、モルトンなどの吸収性材料から成るウィックをインク溶剤液で湿らせ、吸収率が高く且つ湿潤強さにすぐれた紙から成る細長いウェブヘウィックから溶剤を移し、溶剤で湿ったウェブをウィックによりウェブに加えられる圧力によってクリーニングすべき移動している表面と払拭接触させ、ウェブをクリーニングの済んだ表面から離すことにより、従来使用されていたモードの効率の悪さを克服しようとしている。」(同2頁23行ないし28行)、「装置を動作させるときには、まず、ウイックを適切な溶剤溶液で湿らせ、次に払拭ウェブ37がクリーニングすべきシリンダの回転面と接触するようにウィックを移動させ、その面がクリーニングされ終るまでそのような接触を維持し、その後、レバーを解放して、ウィック及びウェブをシリンダから離すと共に、ウィックとウェブを互いに引き離せば良い。次に、ウェブを巻き取って、汚れていない部分をウィックと接触すべき位置へ移動し、そこで、装置は再び動作できる状態になる。ウィックに液体を間欠的に塗布し且つウィックと紙ウェブの吸収力に頼って液体をウェブに移すことによって、相対的に短い時間内で極めて効率の良いクリーニング動作を実行できることがわかっている。」(同7頁末行ないし8頁8行)と記載されており、これらの記載によれば、本件特許発明の出願当時より相当前において既に、洗浄布帛を用いたオフセット印刷機のブランケットシリンダの洗浄装置では、洗浄時間の短縮を図ることが技術課題の一つとされており、洗浄布帛をブランケットシリンダに接触・離脱させる方式が上記課題の解決に有効であることが知られていたことが認められる。
そして、前記説示のとおり、甲第1号証記載のものと甲第2号証記載のものとは、印刷装置のシリンダの洗浄を布帛を押圧して行うものである点で共通し、甲第1号証のカム機構も甲第2号証の膨張部材も、布帛をシリンダに接触・離反移動させる作用のために設けられている点で異なるところはないのであるから、甲第1号証のカム機構に代えて、押圧手段として甲第2号証の膨張部材を転用することの背景は存在するということができる。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(4) 以上のとおりであって、相違点<1>について、「甲第2号証記載の膨張部材をブランケットシリンダの洗浄に転用することは容易とはいえない。」とした審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由1は理由がある。
3 取消事由2(相違点<2>についての判断の誤り)について
(1) 甲第3号証(米国特許第4、135、448号明細書)には、印刷機シリンダの洗浄装置に関し、洗浄布帛供給ロール(給布ローラ10)と洗浄布帛巻取ロール(巻取ローラ3)とを備え、洗浄布4をシリンダ18に近接するように配置する圧力ローラ8を経由させる構成が示されていること、洗浄布4が圧力ローラ8に至る前にこの洗浄布に対して洗浄液を噴射して湿らせるスプレーチューブ19を設けた構成が示されていること、シリンダ表面に付着した汚れに応じた溶剤洗浄することについて、通常水とそれ以外の非水溶媒剤の両者をシリンダ表面に供給することが要求されることが記載されていることは、当事者間に争いがない。
そして、甲第3号証には、「典型的な洗浄剤は水の他に、印刷インクを溶解できる非水溶性溶媒などから成っている。前記Wescottの装置(注 甲第1号証の洗浄装置)は、全く異なる溶媒材料を順次適用する構成としては合理的に利用できない。1種類の溶剤を芯剤に供給して、更にその溶剤を取り除くために長い時間がかかるという事実は、パッドと、芯剤と、洗浄布よりなる一組の構造には単に1種類の溶媒だけをシリンダに与えて、更にシリンダを乾燥させるだけしか実用的に用いることはできないことを意味している。したがって、オフセットリトグラフ印刷機のシリンダを洗浄するためには1種類以上の溶媒を必要とするのであれば、Wescott装置を複数台用いて、複数の溶媒をシリンダに与えて、更に他の装置でシリンダを乾燥させる必要がある。」(訳文3頁6行ないし15行)と記載されていることが認められ、この記載と上記争いのない記載内容によれば、甲第3号証の印刷機シリンダの洗浄装置は、Wescott装置(甲第1号証の洗浄装置)が溶媒を芯剤に供給して洗浄するものであるために、全く異なる溶媒材料(水及び非水溶性溶媒を含む)を1台のWescott装置に順次適用するには溶剤を取り除くのに長い時間を必要とし、実用的ではないとの認識のもと、この欠点を解消し複数の溶媒の供給時間を短縮することを技術的課題として、溶媒の供給手段として芯剤に代えて導管(スプレーチューブ19)を採用したものであると認められる。
(2) ところで、甲第3号証記載のものは、水及び非水溶性溶媒の複数の洗浄液を単一の導管を用いて洗浄布に供給するものであるから、水及び非水溶性溶媒の複数の洗浄液をそれぞれ別個の導管で供給するという本件特許第1発明とは、その構成を異にするものである。
しかしながら、甲第3号証中の上記「Wescott装置を複数台用いて、複数の溶媒をシリンダに与えて」との記載は、複数の溶媒をシリンダに供給するのに複数の供給手段によって行うことが可能であることを示唆するものでもあること、甲第16号証(特許出願公告昭53-44841号公報)には、「ブランケット胴洗滌装置」に係る発明について、洗滌ベルトに洗滌液を与えるためのノズルを複数設けることが記載され、また、甲第17号証(実用新案出願公告昭53-2002号公報)には、「オフセット印刷機のブランケット胴洗浄兼乾燥装置」に係る発明について、溶剤吹付ノズルと水吹付ノズルを別個に設けたものが記載されていることからすると、ブランケットシリンダの洗浄に使用する複数の洗浄液の供給に別個の供給手段を利用することは、本件特許発明の出願前において周知の技術であったものと認められることを併せ考えると、水と水以外の溶媒をブランケットシリンダの洗浄に使用するに当たって、その供給手段として複数の導管を用いることは当業者が適宜採用できる技術的事項であると認められる。
そして、ブランケットシリンダの洗浄装置において、洗浄布帛をシリンダに接触・離脱させる機構と溶媒供給手段とを構成上一体不可分のものとして設ける必要がないことは、甲第3号証から明らかである。
そうすると、洗浄布帛をシリンダに接触・離脱させる手段としてカム機構に代えて膨張部材を採用した甲第1号証のものにおいて、膨張手段とは別体に、水及び非水溶性溶媒の複数の洗浄液を供給する手段としてそれぞれ別個の導管を採用することは、当業者において容易に想到し得たものと認められる。
(3) 被告は、甲第3号証記載のものは1本の導管に水やその他の溶媒を順次供給するものであって、導管を複数にすることの可能性は全く開示されておらず、本件特許発明の併設導管の効果、すなわち、使われる用紙とインキの種類に応じて溶媒と水の供給比率をタイミングよく最適値に制御することによる効率のよい洗浄をするという効果は達成できない旨主張している。
しかしながら、甲第3号証の記載及び周知技術から、水と水以外の溶媒をブランケットシリンダの洗浄に使用するに当たって、その供給手段として2つの導管を用いることは当業者が適宜採用できる技術的事項というべきである。また、本件特許第1発明の特許請求の範囲は、使われる用紙とインキの種類に応 じて溶媒と水の供給比率をタイミングよく最適値に制御することについて何ら規定していない。
(4) 以上のとおりであって、審決が、「膨張部材による布帛移動という構成と結びついて始めて布帛を走行メカニズムの中への複数の導管(水・溶媒など)を併設するという発想が想到するものである。」とした上、「相違点<2>は、甲第3号証に開示されていない。」として、相違点<2>の容易想到性を否定した審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由2も理由がある。
4 被告主張の本件特許発明の特有の効果について
被告は、膨張部材・水導管・溶媒導管の三者を同時に併設した本件特許発明の洗浄装置は、シリンダ上の汚れの程度、質に応じた最適の水・溶媒の供給比及びこれらのタイミング制御が可能となるほか、その汚れの程度に即応して洗浄布帛のシリンダへの接触・離脱(布送り)の繰り返し頻度を簡単な構成によって迅速機敏に制御でき、これらの作用は相乗されて洗浄効率を高め、結果的に洗浄時間の短縮、用紙の浪費の軽減という甲第1号証ないし甲第3号証から全く予期できない特有、かつ独自の効果をもたらすものである旨主張する。
しかしながら、本件特許発明は、水や水以外の供給手段として、「水を前記洗浄布帛に導くための導管と」、「水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、」を設けることを規定し、膨張部材については、「圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させる」と規定しているにすぎないのであって、シリンダ上の汚れの程度、質に応じた最適の水・溶媒の供給比及びこれらのタイミング制御が可能となるような構成、その汚れの程度に即応して洗浄布帛のシリンダへの接触・離脱(布送り)の繰り返し頻度を定める構成については何ら規定していない。そして、膨張部材・水導管・溶媒導管の三者を同時に併設したことによって、上記のような各作用効果が当然に得られるものでないことは明らかである。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
5 以上のとおりであって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担及び上告のための付加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成10年9月29日)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
平成 7年審 判第15689号
審決
東京都板橋区常盤台2丁日20番18号
請求人 ニッカ 株式会社
東京都豊島区西池袋5-10-2 椿ビル4F 村上・大久保特許事務所
代理人弁理士 村上友一
東京都豊島区西池袋5-10-2 椿ビル4F 村上・大久保特許事務所
代理人弁理士 大久保操
アメリカ合衆国 カネチカツト州 06902 スタンフオード シツパン アベニユー 401
被請求人 ボルドウインーゲゲンハイマー コーポレイシヨン
京都府京都市中京区御幸町通三条上る丸屋町330番地の1 みのり特許事務所
復代理人弁理士 武石靖彦
京都府京都市中京区御幸町通三条上る丸屋町330番地の1 みのり特許事務所
代理人弁理士 村田紀子
上記当事者間の特許第1670505号発明「自動ブランケツト洗浄装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する.
結論
本件審判の請求は、成り立たない.
審判費相は、請求人の負担とする.
理由
Ⅰ.本件特許第1670505号発明(以下、本件特許発明という。)は、昭和55年4月19日に特許出願(特願昭55-52233号優先権主張1979年4月19日米国)され、平成2年2月13日に出願公告(特公平2-6629号公報)された後、平成3年11月28日にその特許の設定がなされたものである。
そして、本件特許発明の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項、第2項、第5項、第6項、第7項、第11項及び第12項に記載された次のとおり、
「1.印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができるようしたことを特徴とする装置。
2.印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに、
(f)前記巻取ロールと共同し、実質上同一量の布帛を間欠的に送るための送り機構を備えたことを特徴とする装置。
5.印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに
(f)前記ブランケットシリンダに近接した位置でフレームに連結された動力機構と、
(g)前記巻取ロールおよび前記動力機構に連結され、前記巻取ロールを1方向にだけ回転させるワンウェイクラッチと、
(h)前記ワンワェイクラッチに連結され、前記巻取ロールとともに移動するクランクアームと、
(i) 前記クランクアームに取り付けられた前記巻取ロールの回転量を制御する制御機構とを有し、前記制御機構は前記クランクアームの長さ方向において前記巻取ロールの軸芯の放射方向に移動するキャリヤを有し、さらに、
(j)前記キャリヤに取り付けられ、前記巻取ロールの外面と係合するフォロアを有し、前記フォロアは前記キャリヤに連結され、前記巻取ロールに対し放射方向に移動し、前記巻取ロールに軸芯のまわりを円弧状に移動し、さらに、
(k)前記フォロアの円弧移動を停止させ、これによって前記巻取ロールの過度の回転を防止するストッパを有することを特徴とする装置。
6.印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに、
(f)圧縮空気を前記膨張部材に導き、前記膨張部材を膨張させ、前記洗浄布帛を前記ブランケットシリンダと接触させ、その圧縮空気を前記膨張部材から解放し、前記膨張部材をしぼませ、前記洗浄布帛を前記ブランケットシリンダから離すための導管を備えたことを特徴とする装置。
7.印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a) 洗浄布帛供給ロールと、
(b) 洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d) 水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e) 圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに、
(f)乾燥空気を前記ブランケットシリンダに導き、これを乾燥させるための第3導管と、
(g)前記巻取ロールを間欠的に回転させ、前記巻取ロール上の洗浄布帛の量に関係なく同一長さの洗浄布帛を前記ブランケットシリンダに送るための送り制御機構とを備えたことを特徴とする装置。
11.印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a)洗浄布帛供給ロールと、
(b)洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c)水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d)水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e)圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに、
(f)装置の動作シーケンスを自動的にまたは手動で制御するための制御機構を備えたことを特徴とする装置。
12.印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、
(a)洗浄布帛供給ロールと、
(b)洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c)水を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(d)水以外の溶媒を前記洗浄布帛に導くための導管と、
(e)圧縮空気によって膨張させることができる膨張部材とを備え、前記ブランケットシリンダの反対側で前記膨張部材が前記洗浄布帛と係合しており、前記膨張部材を膨張させたとき、前記洗浄布帛を移動させ、前紀ブランケットシリンダと接触させることができ、さらに、
(f)回転可能に支持され、ハンドクランクによって回転させることができるシャフトと、
(g)前記巻取ロールを回転自在に載置することができるローラ台と、
(h)前記シャフトが回転したとき、前記供給ロールを回転させ、使用された布帛を前記巻取ロールから巻き戻すための前記シャフト上のギヤおよび前記供給ロール上のギヤを備えたことを特徴とする装置。」
にあるものと認める。
Ⅱ.請求人の主張
1.特許法第123条第1項第3号の無効理由
(1)特許請求の範囲の各請求項において、洗浄布帛巻取ロール、および洗浄布帛と、膨張手段との相互関係が不明瞭である。
(2)発明の詳細な説明において、洗浄布帛供給ロールおよびその取付構成が不明瞭である。
したがって、本件特許発明は、特許法第36条第3項又は第4項の規定する要件満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第3号の規定により無効とすべきである、と主張している。
2.特許法第123条第1項第1号の無効理由
本件特許発明の特許請求の範囲の第1項、第2項、第5項、第6項、第7項、第11項及び第12項に記載された発明は、甲第1号証~甲第6号証記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないもので、同法第123条第1項第1号により特許無効とすべきである。
(1)特許請求の範囲の第1項に記載された発明について、
甲第1号証[米国特許第2、525、982号明細書昭和25(1950)年10月17日]、甲第2号証[米国特許第1、147、152号明細書大正4(1915)年7月20日]及び甲第3号証[米国特許第4、135、448号明細書昭和54(1979)年1月23日]を提示して、特許請求の範囲の第1項に記載された発明は、甲第1号証~甲第3号証記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)特許請求の範囲の第2項に記載された発明について
特許請求の範囲の第2項に記載された発明は、甲第1号証(米国特許第2、525、982号明細書)、甲第2号証(米国特許第1、147、152号明細書)甲第3号証(米国特許第4、135、448号明細書)及び甲第4号証(特開昭51-56306号公報)記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)特許請求の範囲の第5項に記載された発明について
特許請求の範囲の第5項に記載された発明は、甲第1号証(米国特許第2、525、982号明細書)、甲第2号証(米国特許第1、147、152号明細書)、甲第3号証(米国特許第4、135、448号明細書)及び甲第4号証(特開昭51-56306号公報)記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(4)特許請求の範囲の第6項に記載された発明について
特許請求の範囲の第6項に記載された発明は、甲第1号証(米国特許第2、525、982号明細書)、甲第2号証(米国特許第1、147、152号明細書)及び甲第3号証(米国特許第4、135、448号明細書)記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(5)特許請求の範囲の第7項に記載された発明について
特許請求の範囲の第7項に記載された発明は、甲第1号証(米国特許第2、525、982号明細書)、甲第2号証(米国特許第1、147、152号明細書)、甲第3号証(米国特許第4、135、448号明細書)、甲第4号証(特開昭51-56306号公報)及び甲第5号証[実開昭53-60904号公報;実願昭51-142651号(実開昭53-60904号]のマイクロフィルム)記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(6)特許請求の範囲の第11項に記載された発明について
特許請求の範囲の第11項に記載された発明は、甲第1号証(米国特許第2、525、982号明細書)、甲第2号証(米国特許第1、147、152号明細書)、甲第3号証(米国特許第4、135、448号明細書)及び甲第6号証(米国特許第3、952、654号明細書)記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(7)特許請求の範囲の第12項に記載された発明について
特許請求の範囲の第12項に記載された発明は、甲第1号証(米国特許第2、525、982号明細書)、甲第2号証(米国特許第1、147、152号明細書)、甲第3号証(米国特許第4、135、448号明細書)及び甲第4号証(特開昭51-56306号公報)記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、主張している。
Ⅲ.請求人が提出した証拠
甲第1号証~甲第6号証の記載事項
(1)甲第1号証(米国特許第2、525、982号明細書)には、「ブランケット等のシリンダ16の表面洗浄のための洗浄装置であり、これは洗浄布帛に相当する紙ウェブ37を使用し、保管リール36(供給ロール)と巻取リール35(巻取ロール)を有し、ブレーキ機構が設けられた保管リール36から、ワンウェイクラッチに相当する爪車48等の機構が設けられた巻取リール35の巻取操作で、紙ウェブ37を巻取可能としている[甲第1号証第3欄第66行~第4欄第5行、第4欄第27~39行(翻訳文第4頁第19~27行、第5頁第11~17行参照)]。紙ウェブ37をシリンダ16に向けて接触させるために、押圧部を構成するウィック60、ウィックホルダ61が設けられ、一対のリール35、36の中間部で、シリンダに向けて紙ウェブを押し出してシリンダに接触させるようにしている[甲第1号証第5欄第11~32行(翻訳文第6頁第16~28行参照)]。洗浄液はポンプにより液体供給チューブ84を通じて行われ、ウィック60が供給された洗浄液を吸湿できるようにしている[甲第1号証第5欄第42~68行(翻訳文第7頁第5~19行参照)]。洗浄ウェブのシリンダに対する接触と離反はウィック60を、カム機構によりシリシダの半径方向に沿って移動させることで対処し、紙ウェブを移動させて洗浄状態にすることができるようになっている[甲第1号証第5欄第11~32行、第6欄第10~27行(翻訳文第6頁第6~28行、第7頁第29行~第8頁第8行およびFig7、8参照)]。
以上のことから、甲第1号証には、印刷機のブランケットシリンダ16を洗浄紙ウエブ37で洗浄するための装直であって、
(a) 紙ウエブ保管リール36と、
(b) 紙ウエブ巻取リール35とを備え、前記洗浄紙ウエブは前記保管ロールと前記巻取リール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、
(c) 水以外の溶媒を前記紙ウエブに導くための導管と、
(d) 紙ウエブ37をブランケットシリンダ16に向けて接触するために、押圧部を構成するウィック、ウィックホルダ61が設けられ、一対のリール35、36の中間部で、カム機構によりウィック60をブランケットシリンダに向けて近接することにより、洗浄紙ウエブをブランケットシリンダに向けて移動させ、前記ブランケットシリンダに接触させることができるようにしたことを特徴とする装置、が記載されている。
(2)甲第2号証(米国特許第1、147、152号明細書)には、凹版印刷機に関し、特に版胴にインキを塗布した後に、版面の余剰のインキを払拭除去しつつ研磨し、食刻や彫刻線にインキが行き渡るようにする構成が開示されている。この版胴表面の払拭、研磨をなす構成は、Fig1、3、5に示すように、版胴面に対面している4組のパッド27、28、31、32を有し、これらに払拭布や研磨布を経由させるようにしている。パッド27に関し、布は2本のリール[布リール35(供給ロール)、巻戻しリール36(巻取ロール)]により巻き戻し(巻き取り)をなすように構成され、インキング装置でインキが塗布された版胴から余剰のインキを払拭布で拭い去り、また研磨し、食刻や彫刻線に残留させたインキを印刷用紙に転写する構成となっている。版胴からインキを払拭するパッドはゴム材料からなるエアパッド構造となっており、圧縮エアを供給することにより膨張して布を版胴表面に押し付け、空気を抜くことによりパッド操作不能とすることが記載されている。
すなわち、甲第2号証の第3頁左欄第60行~右欄第86行には、払拭布29および30が通過する払拭パッド27および28と、研磨布33および34が通過する研磨パッド31および32が設けられ、各払拭および研磨パッドは2本のリールと組み合わさっていて、その一つは、ロール状の払拭または研磨布を保持し、他の一つは、徐々に当該布を巻き戻す(巻き取る)ように作用していることが示されている[甲第2号証(翻訳文第5頁第23行~第6頁第6行参照)]。更に、甲第2号証第4頁左欄第16~35行には、各パッド27、28、31および32は、構造的には互いに近似し、下画に凹部を有する固定ヘッド75を備え、前記凹部には、伸張性のある中空の可撓性を有するラバークッション76がはめ込まれ、バルブ77を介した圧縮空気で膨張するようになっていることが明示されている。そして、このような構成により、版にかかる必須の圧力は、クッション76を膨らませることで確保されること、必要ならば、クッションの幾つかを空気を抜いてしぼませて幾つかのパッドを操作不能とすることが明示されている(翻訳文第7頁第5~14行参照)。
(3)甲第3号証(米国特許第4、135、448号明細書)には、印刷機シリンダの洗浄装置に関し、洗浄布帛供給ロール(給布ローラ10)と、洗浄布帛巻取ロール(巻取ローラ3)とを備え、洗浄布4をシリング18に近接するように配置する圧カローラ8を経由させる構成が示されており[甲第3号証第3欄第66行~第4欄第5行、甲第3号証第5欄第22行以下(翻訳文第5頁第5~8行、第6頁第21行以下参照)]、また、洗浄布4が圧力ローラ8に至る前にこの洗浄布に対して洗浄液を噴射して湿らせるスプレーチューブ19を設けた構成が示されている[甲第3号証第6欄第18~24行(翻訳文第7頁第28行~第8頁第2行参照)]。そして、圧力ローラ8の表面部の洗浄布4をシリンダ18に接触させるのは、ケース2を矢印27のように旋回させることで実現している[甲第3号証第6欄第25~31行(翻訳文第8頁第8~7行参照)]。特に洗浄液に関し、プランケット洗浄には水と非水溶媒を塗布して洗浄する必要性についそ開示され[甲第3号証第1欄第23~32行(翻訳文第1頁第14~19行参照)]、甲第1号証を先行例に挙げて、洗浄剤は水の他に非水溶性溶媒があり、1種類以上の溶剤を必要とするのであれば、甲第1号証のウェスコット装置を複数台設置する必要がある旨記載され[甲第3号証第2欄第40~52行(翻訳文第3頁第7行~15行参照)]、実施例では一つのスプレー管19について説明しているものの[甲第3号証第7欄第31~40行(翻訳文第9頁19行~24行参照)]、請求の範囲第1項には少なくとも1種の洗浄液を布に吹き付ける手段を設けた構成を示している(甲第3号証第8欄第26~33行翻訳文第10頁23~25行参照)。
(4)甲第4号証(特開昭51-56306号公報)には、印刷機シリンダの洗浄装置に関し、洗浄布帛供給ロール(マガジンローラ6)と洗浄布帛巻取ロール(巻取ローラ8)とを備え、洗浄布帛をシリンダ1に近接するように配置する圧着ローラ7を経由させる構成が示されており、また、洗浄布9が圧着ローラ7に至る前にこの洗浄布に対して洗浄液を噴射して湿らせるスプレーチューブ13を設けた構成が示されている。そして、この圧着ローラ7の表面部の洗浄布9をシリンダ1から離反させるのは、ケース15を矢印16のように旋回させることで実現している。「巻取ローラ(8)上にある洗浄布(9)の直径によって爪車駆動装置の持上げ(行程)を変化させる制御手段が設けられいる」(甲第4号証第1頁右欄下段第7行~第9行)、またこれに対する詳細な説明に「圧着ローラは・・・洗浄布の各輪送ステップに対していつも同じ角度だけ回転させられ」ていること、並びに「洗浄布は各輸送ステップに対して同じ長さだけ運ばれる」ことが明示されている(甲第4号証第2頁第左下欄第13行~同右下欄第6行)。また、間欠に送る機構については、甲第4号証には先行技術の明細書として甲第1号証を掲げ、「・・・洗浄布を巻取ローラ上への歩進的に運ぶ伝達装置が設けらている事は欠点である。」(甲第4号証第2頁左上欄第2行~右上欄第15行)であるとして、巻取ローラ8に設けた爪車駆動装置75について記載され、「各洗浄行程に対して同じ長さの洗浄布が使用されるようにする。」(甲第4号証第6頁右下欄第6行~第8行)及び「第12図から、巻取ローラ(8)の回転軸(23)には円錐ベルト車(94)が結合されて居り、この円錐ベルト車(94)と共に1つの多角体(95)によって洗浄布が巻取ローラ(8)からマガジンローラ(6)へ巻き戻されうる事が容易に判る。おまけに円錐ベルト車(94)は多角体(95)へ固定されている傘歯車(96)とかみ合っている。この装置によって、前の洗浄過程で乾かす為に利用された洗浄布の一部を逆回転せうる事が判る。これによって洗浄布の利用度が高められる。」(甲第4号証第7頁右上欄第11行~左下欄第3行)
(5)甲第5号証[実開昭53-60904号公報;実願昭51-142651号(実開昭53-60904号)のマイクロフィルム]には、ブランケットクリーナについてのものであり、スポンジに接して洗浄液を受け取るゴムローラ10と、このゴムローラ10およびブランケット4の両者に接触可能な洗浄ローラ9とを有し、洗浄ローラ9をブランケット4に接触させることで洗浄作用を行うようにしている。このようなクリーナには洗浄後のブランケット表面にエアーを吹き付けて乾燥させるべく、エアー吹き手段50を設け、紙供給機構に設けられたポンプからエアーをノズル51から噴射するようになっている。(明細書第11頁第10行~第12頁第7行)
(6)甲第6号証(米国特許第3、952、654号明細書)には、自動ブランケット洗浄システムに係り、洗浄液を含浸したスポンジによりブランケットシリンダを払拭洗浄するようにしている。そして、この明細書には「洗浄動作の全ての機能を管理する簡単な構造の制御システムを一体に組込むことができ、・・・洗浄システムの駆動を印刷動作に適切に同調させて行うことができるが、異物の付着成長の検出や手動操作なども可能である。」[甲第6号証第4欄第8行~17行(翻訳文第6頁第3行~第8行参照)]また、ブランケット洗浄作業の自動制御について「洗浄システムの運転は、・・・自動的に行うことができる。通常メイン制御パネル122を設けることで、・・・完全自動化を達成できる。印刷オペレータが主スイッチ132を操作することで手動操作することも可能である。」[甲第6号証第8欄第17行~第27行(翻訳文第11頁第18行~第23行参照)]
Ⅳ. 当審の判断
1. 本件特許発明が特許法第36条第3項又は第4項の規定する要件を満たしているかどうか検討する。
(1)前記Ⅱの1の(1)について
しかしながら、本件各特許請求の範囲の記載において、ブランケットシリンダの反対側で膨張部材と洗浄布帛とが係合しており、膨張部材を緊張させたとき、洗浄布帛部を移動させ、ブランケットシリンダと接触させることが記載されているから、洗浄布帛巻取ロール、洗浄布帛および膨張手段との相互関係が不明瞭とはいえない。
(2)前記Ⅱの1の(2)について
本件特許発明の明細書の第6図の実線、点線出明確に示されているように供給ロールはフリーであるから、膨張部材が膨張したので、洗浄布帛を移動させ、ブランケットシリンダと接するものと理解できる。
したがって、特許法第36条第3項又は第4項の規定の要件を満たしていないとの主張は理由がない。
2.次に、前記Ⅱの2の(1)について検討する。
(1)特許請求の範囲の第1項に記載された発明(以下、「本件特許第1発明」という)と甲第1号証記載のものと対比すると、本件特許第1発明の「供給ロール」、「巻取ロール」及び「洗浄布帛」は、甲第1号証の「保管リール」、「巻取リール」及び「洗浄紙ウエブ」にそれぞれ対応するので、両者は、印刷機のブランケットシリンダを洗浄布帛で洗浄するための装置であって、洗浄布帛供給ロールと、洗浄布帛巻取ロールとを備え、前記洗浄布帛は前記供給ロールと前記巻取ロール間で前記ブランケットシリンダに近接して配置され、洗浄液を導く導管と、押圧手段を備え、前記ブランケットシリンダの反対側の前記押圧手段により、前記洗浄布帛を移動させ、前記ブランケットシリンダと接触させることができるようにした装置」の点で一致するものの、次の点で相違する。
<1>本件特許第1発明は、押圧手段として、膨張部材を用いたのに対し、甲第1号証に記載されたのものは、カム機構を用い、そのカム機構によりウィックホルダの先端のウィックを押し出し移動させた点。
<2>本件特許第1発明は、洗浄液として、水と水以外の溶媒を用い、導管を介し直接洗浄布帛に導いたのに対し、甲第1号証に記載されたものは、洗浄液を導管、ウィックを介し洗浄布帛に導いた点。
次に相違点について検討する。
前記相違点<1>について、
甲第2号証には、凹版印刷装置に関するものが記載され、そして、膨張部材として空気圧による膨張部材を用い、版胴表面を払拭するシートを版胴表面に膨張部材への空気供給によって押し付ける構成が開示されている。また、空気供給により膨張させたときに洗浄布帛を版シリンダに接触させ、空気を抜くことにより版シリンダに接触させない操作不能な位置まで洗浄布帛を離反移動させることを明示している。更に、この膨張部材が布帛リール35、巻戻しリール36間の払拭布帛を押圧して版面の余剰インクを払拭除去することが記載されている。この凹版印刷印刷機の「給湿装置」、「インキング装置」、「インキ払拭装置」及び「インキ研磨装置」は、「印刷機械の作用は・・・各版インキング装置26を通過するとインキを受け取って払拭パット27および28を通過し、そのパッドを布29および30が通っている。布は食刻または彫刻線からインキを除去することで過剰なインキを吸い取って一部インキで満たされるとともに、払拭布で当該刻線にインキを・・・満たしている。払拭パッド27、28から各版は研磨パッド31、32へと通過する。研磨パッドは、版の上面に対してのみ限定的に作用し、上面に残っているインキを除去する。」(甲第2号証第5頁第51行~第76行翻訳文第9頁第23行~第10頁第5行参照)又「各版は受渡し装置により印刷紙を剥ぎ取られた後、布98によって吸湿装置へと進む。ここにおいて、版の非印刷面は薄い水の膜を形成し、他のインキのある部分では水を弾き、版に刻まれた線内に溜まっているインキが印刷線内に留まらないようにしている。各版が吸湿装置に置かれると、給湿布98が吸湿プラテン97を回って水分を含ませる布の新たに水分を含ませた部分を持ってくるように進行する。・・・吸湿装置は各版と係合する前のインキング装置と近接して運転され、油分を寄せ付けない各版面の水膜は非印刷面にインキが留まらないようにしてある。しかしながら、版面の違った部位には微量のインキが残ってしまい、払拭装置が必要となる。研磨装置は、版の仕上げを必要とするような全ての状況を破棄するのに必要なものであり、払拭パッドが非印刷面から水分の膜を除去するために配されている。当該表面にインキがあるか否かは問わない」(甲第2号証第6頁第71行~第84行翻訳文第11頁第29行~第10頁第13行参照)及び「更なる他の目的は、このような特徴のある印刷機を提供し、その中で圧胴とインキング装置との中間に給湿手段を設けて連続する版の表面を湿らせて、上面に置かれたインキの量を最小限に止め、印刷機の運転コストに経済性を持たせることである。」(甲第2号証第1頁第91行~第100行翻訳第2頁第22行~第25行参照)と、それぞれ記載されていることから、前記甲第2号証のインク払拭除去について、更に検討すると、甲第2号証のものは、前記膨張装置と同様な構成である給湿装置で予めインクの節約という観点から湿り気を与え凹版である凹溝のみにインク着けをするものである。そして、前記膨張部材で、凹版シリンダ上の水分及び過剰のインクを取り除くことを目的にしたものである。
他方、本件特許第1発明は、オフセット印刷機のブランケットシリンダに印刷時に集積された付着物を取り除くための装置であり、取り除くのは印刷中に生じた様々な付着物を取り除くものである。すなわち、本件特許第1発明と甲第2号証の膨張部材で移動される布帛の対象及び作用が異なるものであるから、甲第2号証には、ブランケットシリンダを洗浄するという課題は、記載されてなく、また、示唆していないので、甲第2号証記載の膨張部材をブランケットシリンダの洗浄に転用することは容易とはいえない。
相違点<2>について、
甲第3号証には、オフセットシリンダの洗浄装置に関するものが記載され、シリンダ表面に付着した汚れに応じた溶剤洗浄することについて、通常水とそれ以外の非水溶媒剤の両者をシリンダ表面に供給することが要求されることが記載されている(甲第3号証第1欄第23行~第32行翻訳文第1頁第14行~第19行参照)。請求人は、「第3号証の実施例において単一の洗浄導管とノズルを設けた例が開示されている、そして、水と非水溶性溶媒と用いる場合は、洗浄剤を複数種類使用する場合はウェスコット装置(甲第3号証の先行技術である米国特許明細書(甲第1号証))を複数台設置する必要がある」(甲第3号証第2欄第40行~第52行翻訳文第7行~第15行参照)と提示されていることを考慮すると、2本のスプレー管をそれぞれ配置する可能性を明示することができる、と主張している。
しかしながら、甲第3号証の発明者が先行技術である甲第1号証の装置を複数台設置する必要があると提言した背景は、洗浄布帛全体を供給ロール、巻取りロール、とともに機械的に回動させなければならないという複雑なメカニズムの中へ溶媒配管を複数組み込むことの非現実性・困難性に由来するものであって、本件特許第1発明のように、膨張部材による布帛移動という構成と結びついて始めて布帛を走行メカニズムの中への複数の導管(水・溶媒など)を併設するという発想が想到するものである。
したがって、相違点<2>は、甲第3号証に開示されていない。
それ故、本件特許第1発明の構成要件の一部である膨張部材、水導管、溶媒導管の三者同時併設からなる結合構成については開示されないから、本件特許第1発明は、甲第1号証~第3号証記載のものから、容易に発明をすることができたものとすることはできない。しかも、本件特許第1発明の効果として、「膨張手段を膨張させると、洗浄布帛シリンダに向けて移動させ、これをブランケットシリンダと接触させることができ、洗浄布帛によってブランケットシリンダを洗浄することができる。この構成は簡単であり、初期の目的を達成することができる。」という効果を奏するものである。
(2)特許請求の範囲の第2項、第3項、第4項、特許請求の範囲の第5項、特許請求の範囲の第6項、特許請求の範囲の第7項、第8項、第9項、第10項、特許請求の範囲の第11項及び特許請求の範囲の第12項に記載された発明について、
特許請求の範囲の第2項~第12項の各請求項は、本件特許第1発明の(a)(b)(c)(d)(e)の5つの構成要件の組み合わせた主要部を構成要件とし、さらに種々の特定の技術を構成要件として付加したものである。請求人は、前記各特許発明に付加されている特定の構成について、例えば巻取りロールの定量送り機構や空気吹き出し手段、シーケンス手段等が甲第1号証~甲第6号証に段片的に記載されていると主張しているが、特許請求の範囲の第1項の前記主要部で各構成要件が容易に発明をすることができない以上、請求人の提出した証拠方法でもって無効とすることできない。
したがって、本件特許発明の特許請求の範囲の各請求項の発明は前記甲第1号証~甲第6号証記載のものから容易に発明をすることができたものとすることはできない。しかも、前記甲第1号証~甲第6号証に記載のものには期待することのできない本件特許発明の特有な作用効果を奏するものと認められる。
4.以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許発明を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
平成8年9月30日
特許庁審判官 特許庁審判官
特許庁審判官
特許庁審判官
別紙図面1
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別紙図面2
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別紙図面3
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別紙図面4
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